一過性

「私の心が痛みをおぼえないとでも思っているのか。非道は承知している。承知の上で私は国家の生存をとらざるをえんのだ」

「なるほど、あなたは良心的でいられる範囲では良心的な政治家らしい」

 辛辣な笑いがシェーンコップの端正な顔をななめに流れ落ちた。

「だが、結局のところ、あなたたち権力者はいつでも切り捨てるがわに立つ。手足を切りとるのは、確かに痛いでしょう。ですが、切り捨てられる手足から見れば、結局のところどんな涙も自己陶酔にすぎませんよ。自分は国のために私情を殺して筋をとおした、自分は何とかわいそうで、しかもりっぱな男なんだ、というわけですな。『泣いて馬謖を斬る』か、ふん。自分が犠牲にならずにすむなら、いくらだってうれし涙が出ようってものでしょうな」

田中芳樹『銀河英雄伝説6 飛翔編』徳間書店、1985、p.174