一過性

330㎞/h、3台横並びの絶叫
「あいつら本当にクレイジーだ!」
BARホンダ陣営の無線にゾンタの悲鳴のような大声が入ってきた。レースも残り5周となったアップヒルストレートエンド、通称
レ・コンブ コーナーからその声は発信されていた。

数周前からシューマッハーとハッキネンの首位争いが激化していた。そしてこの戦いはシューマッハーに分が悪かった。明らかにタイヤがグリップダウンを起こし、ハッキネンに迫られるばかり。とりわけオー・ルージュの上りはトラクションがかからず、ここでハッキネンに追いつかれるのだ。逆にハッキネンにとってはレ・コンブまでのストレートこそ勝負所なのだが、シューマッハーのきついブロックに手を焼く。39周目、ハッキネンはシューマッハーのスリップストリームに入り、そこから脱してライバルに並びかけたが、これはシューマッハーに押し止められた。

翌周、似たパターンが再現されるが、今度はふたりの前に周回遅れのゾンタがいた。そのゾンタにBARから無線が飛んだ。
「マイケルとミカが行くから気をつけろ」

レ・コンブの手前でゾンタ→シューマッハー→ハッキネンの3台は縦一列になった。スピードは330㎞/hオーバー。シューマッハーが左に逃げる。前にゾンタが現れたハッキネンは右に飛ぶ。しかしそこはまだコースが濡れている!

ゾンタが一瞬つぶった目を開けたとき、ハッキネンが前に出ていた——。