主人の渡米後、日本で食事の席を
ご一緒させていただいた時、
主人が決して口にすることの出来なかった質問を
勢いで私がしてしまった。
かつては取材対象だった氏も
「主人の恩師であり、私も以前仕事で
お世話になった方」に変わった気楽さがあった。
「なぜ…あれだけ主人の打順を
連日のように変えたのでしょうか?」
一瞬箸を止めて苦笑いしたのは今は亡き仰木彬監督だ。
「ははははは。いやあ、それねえ。
実は僕も気にしてたんですよ。
きっと怒ってるやろうなって。
でも、結局田口の使い勝手のよさに
甘えてしまったんです。彼は非常に我慢強いし、
文句も言わずに与えられたことを
期待以上にきちっとこなしてくれる。
監督の立場からすると、
そんなに使いやすい選手はないんですよ。
田口は言いたいことが山ほどあったやろうね。
いや、悪いことしたよ。田口、怒ってた?」
いたずらが見つかってしまったような笑顔。
「はい、当時は怒って、悩んでいました」と私。
「ははははは。そりゃあ、そうやろうなあ」
オリックス時代の主人は、レギュラー選手としてスタメンを毎日任されていた。
通常、レギュラーであれば、打順もおのずと決まってきて、それが固定されていてもおかしくない。
少なくとも、選手にとってはそのほうがずっとやりやすい。
先頭打者なら、出塁ばかりでなく、多くの球を相手に投げさせて、味方打線に見せる、という役割。
クリーンアップなら、打点をあげる、という重責。
そんな中で、主人は「猫の目打線」と言われた仰木マジックを代表するように、
1番から9番まで、連日のように打順を変えられた。
他のレギュラーは、ある程度打順が固定されているのに、
なぜ自分だけ、この変化に対応しなければならないのか、
毎度毎度違う役割を担わなければならないのか、と、主人は悩んだ。
だから「言いたいことが山ほどあった」
しかし、日本のプロ野球で、選手が監督に物申すのは不可能で、
与えられたことを無条件に「はい」と呑むのが当たり前だ。
監督、コーチはあくまでも「服従すべき相手」で、選手はその下にいる、兵隊のようなものだから。